大学時代の友人と酒を飲んでいて、NHKの『プロジェクトX』という番組について話をしていてどうもしっくり来なかった。(うまく議論してじぶんの思っている事を伝えられなかった) その前にもとある友人とこの番組の話になってやはり彼が高くこの番組を評価していた。 どうも、この番組に関しては世間で高く評価されているようなので、世間の評価に対して僕が感じている事を少し書いてみたい。
まず、最初にこの番組を見たのは『ロータリーエンジン物語』『セブンイレブン物語』だったとおもう。(題名は違ったと思うがそう言う事を放送していた。) 前者はマツダ自動車、後者はセブンイレブンがいかに頑張って成功したのかという話をドキュメンタリとして作っているのである。
味付けは、その成功を指揮した人物の努力とチームプレーの勝利をたたえるのだ。正に日本の戦後復興と技術王国の曙を浮き彫りにするシリーズなのだ。 まさに勝者をたたえると言うコンセプトなのだ。 基本的には、『企業の成功物語』なのである。
確かに見ていて気持ちの良い番組である。それは話の中身が成功物語だからである。
無論単純な成功物語ばかりではないのだろうが、基本的なコンセプトとしてそう言う物だと思う。
見ている人間は登場人物を自分に重ねてカタルシスを感じる。

それはそれでいいのだ。物語を作る時にわざわざ見て不愉快になるような番組を作る必要はないのだ。
だから僕も番組としては優れた物だと思う。


そこまでの評価は完全に一致するのだ。

だからはっきり僕もここで表明しておく。『プロジェクトX』という番組は優れているし、見ていて気持ちが良い。
こんな御時世だから、このような番組は必要なのかも知れないと思う。
元気を出して、工夫して、先人達の発想や行動力を真似なければいけない。



しかし、残念ながら『しかし』という言葉が続くのだ。なぜ、『NHKがこのような番組を作り、放送するのか』と言う事が問題なのだ。

NHKは、『僕らの気持ちを良くする』為に有るのだろうか。

実際の生活を見てみてほしい。政治は腐敗して、企業の業績は振るわず、リストラは行なわれ、経営者の責任はとわれない。
真面目に生活して働いている人々は生活を破壊され、年金さえももらえるかどうか分からず、末代まで続く借金が年々増えて行く。
中高年の自殺者は増え続けている。

こんな時代に、一時間ばかりの番組を見て気持ちよくなってどうする?
おそらく、『プロジェクトX』の番組制作者は、なんの問題もなく取材も行なう事ができるのだろう。 題材になる会社の社内資料映像が頻繁に使われる所を見ても分かる。 こういう番組を『企業の広報番組』という。
硬派ドキュメンタリからは大きく懸け離れている。
NHKの姿は、取材妨害に合い、訴訟され、闘い続ける様なメディアから懸け離れている。

僕はNHKの大きな役割として社会に対しての警鐘を鳴らすと言う事が有ると思う。
そして『弱者の立場に立った番組作り』と言う視点が必要だと思う。


人は社会的な不正を見た時、不愉快になり、怒りを感じる。
それはその不正で辛い思いをした個人の気持ちを思い、その人(や動物や物や森羅万象)の立場に立ち涙を流すのだ。


プロジェクトXは勝者の視線から見た番組なのだと感じる。まるで大河ドラマのミニチュア版である。

同じように金をかけて番組を作るなら弱者の視線に立った番組を作ってもらいたい。
早い話、『プロジェクトX』は民放で企業をスポンサーにして作れば良い内容なのだ。


母子家庭から執拗にセクハラまがいの方法で受信料を取り、生活に困っている家庭からも取り、集めた金である。
その金は、大企業の広報の為に使われるべき金ではない。
政治は正しく行なわれているか、行政は不当に金を使っていないか、司法はきちんと機能しているか。
NHKにはメディアとしての大きな責任が負わせられている。
常に見て感じて、疑問に思い、自分の行動が世界を変えられるかメディアの送り手は大きな責任を負うのだ

上に書いたセブンイレブン物語と『ロータリーエンジン(マツダ自動車)物語』を見た時に次のような事を感じた。
セブンイレブンに代表されるコンビニには問題はないのだろうか。
競争過多で多くの店鋪が閉店を余儀無くされ、それに伴って大量の人間が失業するはずである。
商品は皆定価で売られている。余った弁当は捨てられるのはもったいなくないのか(地球には飢えている人々が多くいる)。
フランチャイズにかせられるロイヤリティは高すぎないのか。


きっと、今コンビニを経営している人々の中であの番組を見て怒り狂っている人間もいるだろう。
ファミリーマートが500店鋪閉鎖すると発表をした。
どれだけの人間がこれで悲しい思いをするのだ。

その人たちが払っていた受信料は、自分達をそんな目に合わせた経営者をヨイショする事に使われる。
なんか、おかしいんではないかい?


マツダは『フォード流』という言い方でいとも簡単に首きりをしようとしている。1000人単位での解雇、下請けへの圧迫(ほとんど仕事が無くなる/この影響は大きい)そう言ったことが起こっている。

昔、いかにして苦境を脱したかとか、経営者の苦悩をしたリ顔で説明されたくはない。
「ああ、経営者も苦労しているんだねえ、わしらも首きられても仕方がないわ」と感じているとでも思っているのだろうか?
まあ、そう思ってもらえればこの番組も作ったかいが有ると言う物だろう。

NHKが本当に受信料を払っている人間の立場に立っているならば、『解雇される労働者、下請けの人々の立場に立って』番組は作られるべきではなかったか。
日産のリストラにしても、経営者の責任追求は全く行なわれていない。
皆、関連会社で社長のままである。阿呆らしいを通り越して話にならない。
なぜ、NHKはリストラで苦しんでいる人たちのドキュメンタリーを作らない。
なぜ、NHKは社員の首をきって、責任もとらない経営者に焦点を当てない。
そんなに企業の走狗になって何が楽しいのだ。

NHKには『弱者の視点』がすっぽりと抜け落ちている。

少なくとも、『プロジェクトX』からは、ドキュメンタリのような看板は下ろすべきである。
企業の広報番組であり、問題点を隠すだけなのだ。

今本当に必要な物はこの日本を腐敗させた『大蔵省銀行タカリ物語』であり『通産省腐敗神話』であり『建設省天下り先建設プロジェクトX』である。
なぜ自分達の社会の病理に正面から向かい合う番組を作らないのだ。
視聴率など気にしないで作る事ができるし、それを望まれているだ。


そんな番組を作る事が出来る機会を無駄にして、作らなければならない義務をNHKは放棄している。

この不愉快な世の中をそのまま映している番組、見るのも嫌になる番組、そんな番組を作らなければいけない。
いつか、僕らの社会をそのまま映した番組がとても心地よい日が来ると良いと思う。


そんな日が来るまで、今は、辛い事だが、見るのも嫌になる番組を作り続けて行こう。そんな番組を見て涙を流すのだ。

『踏みにじられた者を想い、いつかそんな事が起こらない社会を作る事。』それだけが踏みにじられた者たちへの償いなのだ。

だから、NHKで放送されている『プロジェクトX』を僕は大嫌いだ。


無論NHKには評価すべきドキュメンタリも有るし、頑張っている人たちもいるだろう。しかし、物事は単純な四則演算で評価が決まる物ではないのだ。時々垣間見る『良い発言、良い番組』が有るにしてもNHKの問題は減る事はない。極悪人が買い物のおつりをレジ横の募金箱に入れる様な物だ。